2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

現在の問題、未来の問題

もういちど養老孟司の言に立ち返るべきだろう。「現代人はすべてを現在にしてしまう。未来も過去も現在にしてしまう」。『反戦な家づくり』の人が、建築について言うことは、建築について知識のない私にはまず信用できるのだが、それは確認も検証もする能力…

ハイデッガー『形而上学入門』(平凡社ライブラリー)

買ってみたけど、難しすぎて、手に負えない。シュピーゲル対談は、あれ、自己弁護になるから生きてるうちは公開しないで、って話でしょ。「クライストの悲劇」氏の感想は、背景と内容の区別がないのだ。まあ社会的にはナチスに額づいて大学の総長になって、…

「当事者免責原則」

最近よく考えていることなのだが、社会は事件の当事者こそ免責するといいのではないかと思うのだ。まだ考えが整理しきれてないのだが、死刑というのは、殺人者が死刑になる場合、殺人者が行った殺害方法で刑が執行されるわけではない(される場合もあるかも…

強欲で社会が良くなったという経験が「善くあれば良し」という思想を強襲する

強欲をうまく位置づけられないというのが、近代思想のいちばんの難関なのかもしれない。個室にこもってしまえば、強欲の醜さは見えなくなってしまう。共同便所しかない時代には、トイレに死体を流すことはできなかった(そういう時代にはしかしリンチが横行…

ご冗談でしょう、ドーキンスさん

カントやその他の倫理学者は別にして、また愛国的熱情をしかるべく評価した上で、絶対論的な道徳をよしとする素地をつくるのはふつう、歴史が正当化できる限度をはるかに超える権威を持つと考えられている、いわゆる聖典の類である。(ドーキンス『神は妄想…

歴史の進歩

アリストテレスが『ニコマコス倫理学』で(第一巻第八章)、生まれが良く、美しく、富と友に恵まれている者がより幸福である、と語るとき、私が、そりゃそうだがと笑い出してしまうほどには、現代ではこの幸福は相対化されているわけだ。ギリシャ時代は現代…

アリストテレスがオッペンハイマーの枕元に立って…

しかしながら、或ることがらにいたっては、おもうに、強制されてもなすべきではないのであって、ひとはむしろ、いかなる恐るべき受難をも避けず、死を選ぶべきであろう。(アリストテレス『ニコマコス倫理学』) 原爆の開発者よ呪われろ。枯葉剤の開発者よ呪…

「つまらないから見ない」?

佃煮にするほどネットに転がっている「テレビがつまらない」論というのも、不徹底な議論である。どちらかというと議論ではなく「挨拶」なのだろう。そういう挨拶に私は返礼しないのである、しつけのなってない現代っ子だから。(追記。よく考えたら「つまら…

先生…

要するにその臨床は職人藝みたいなもの、あるいは天賦の才能に幾いと思わせるものがあり、ということは科学ではない、ということになる。http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20080527 たとえば、天ぷら職人の名人芸、つまり天賦の才は、本人の学歴には関係な…

中世西洋は成功したか

キリスト教が浸透したせいで、中世西洋は他地域より卓越した、と言いたい気がするのだが、別にそうでもないのだ。先にモンゴルが大帝国になってヨーロッパに攻めてきたし、大航海時代はもうルネサンスなわけで、それはまあ世界にキリスト教を広めるのだとい…

野蛮さはあんがいに哲学的である

『カリートの道』を見る。これも傑作である。わたしがリアルタイムでデ・パルマを見るのは『ミッション・インポッシブル』からなのだが、どうもデ・パルマにとって映画のCG化という潮流はマイナスに作用したのではないかと思う。とはいえ、今作と『カジュ…

「合理主義」

rento氏の5/18の日記を見て、ちょっと思ってしまったのだが、天皇制すら破棄できない現代日本人に、キリスト教原理主義やイスラム教原理主義について喋々できる資格があるのかね、ということ。キリスト教原理主義はやばいものだし、イスラム教原理主義もやば…

『インランド・エンパイア』

いやー恥ずかしい。2回も劇場に足を運んで、2回ともはじめの1時間、眠っていたことが発覚しました。「なにこの映画、DVDで増補したの?」てくらい新鮮な映画体験。3600円をどぶに捨てていた私。アホですわ。

見る

『ニコマコス倫理学』をひろい読みしているのだが、岩波文庫版の21ページで「われわれにとっての判明なことがら」から議論を出発させねばならない、とアリストテレスは言っていて、ああ、穏当だなー、と思ったのだ。「われわれの判明さ」の遥か奥に、レン…

『ボーン・アルティメイタム』

マット・デイモンがカメラ目線で「君は国のためなら人殺しもするのかい?」と観客に問うて締める。ごちそうさまでした…。

エリック・レッド脚本『ヒッチャー』

以前見たはずなのに全く内容を憶えていなくて、それでまた借りたのだが、なんでだか理由がわかった。なんの落ち度もない女の子を、悪者に殺させているのだ。これ、だめだろ。ああ、私はモラリストだなあ。あんまりいやな後味ゆえに、私は私の記憶から抹消し…

ブライアン・デ・パルマ『カジュアリティーズ』

デ・パルマ作品で一番素晴らしい。グッドガイがバッドガイに豹変する事情を、脚本・演出・演技どれも過不足なく有機的に絡み合って表現している。マイケル・J・フォックスが無能な兵隊というのがいいのだ。その無能な兵士がモラルの持ち主であるという一点…

リドリー・スコット『ハンニバル』

白装束でベネチアを闊歩するレクター博士は似合わないなと思っていたが、なんだ、あれは『ベニスに死す』への目配せだったのか(原作は未読)。エンディングの夕陽に染まる飛行機は、『ベニスに死す』冒頭の夕闇せまる蒸気船と対応しているのかな。

トーマス・マン『ヴェニスに死す』

予想通り、こちらは、ヨーロッパの死というのは直接の主題ではなかった。世紀末的でもありえたかもしれない官能主義者トーマス・マンの自決の書といった色彩が強い。ここから先よりモラリスティックな芸術家への道をマンは選択するわけだ。ヴィスコンティは…

性に関する随想

ビデオを大量に借りてきて見まくっていたら、たまたま性について考え込んでしまう作品の流れになっていた。『ベニスに死す』で、年老いたバイセクシュアル監督によって、若さへの羨望と、女への失望が描かれているのを見、『動く標的』で60年代ロスの乱倫…

中世神学

すごく大づかみに言うと、神の使い(後に彼も神だったと解釈しなおすわけだが)の降臨という歴史上の大事態、異常事態(そりゃそうだ。死んだ人が生き返るわ、空のかなたに昇っていくわしたら、生物学も物理学も崩壊じゃい…)を受けて、その意味を解釈すると…

あまりに日本人的

シュピーゲルとの対話も大きい, 2006/8/9 By クライストの悲劇 - レビューをすべて見る 個人的にはハイデガーの後期の思索は「存在と時間」とはまた少し違った魅力をもち、その呪縛にとらわれた時も少なからずあった。またハイデガーの技術に対する考え方は…

ヴィスコンティ『ベニスに死す』

いまごろ見たのだが、あまり若いときに見ないでいて、それで良かった気もする。素晴らしい作品。私はマーラーの伝記をある程度知っていたので、前半で可愛いアシェンバッハの娘が出てきた時点で、すでに胸が痛んだのであるが、これは家庭生活も破れ芸術生活…

泥縄

鎌倉仏教まで調べだす。泥縄。なんだ私は。橋本治にでもなるつもりか。日本は狭いから早くも鎌倉時代にプロテスタントが勃興して、江戸時代にはそれが管理組織化された、明治以後は廃仏毀釈があって、新宗教、新興(新新)宗教が名乗りをあげた乱立期である…

アリストテレス

少し前の猫猫ブログでよく事情のつかめない文章があって、私はそのまま読み流していたが、どうやらここのことなのかな?→http://d.hatena.ne.jp/kingfish/20080507論述は面倒くさいので写真で。中世思想史 (平凡社ライブラリー)作者: クラウス・リーゼンフー…

吝嗇な人間の無駄遣い

私は病的に吝嗇な人間だが、たまに無駄遣いをする。そういうことが必要なのを経験的に知っているからである。いまの経済が行き詰っている理由には、合理化と価値増大化の一辺倒で押し通しているから、という側面もあるのではないか。自分のリアリティをふと…

ドーキンス『神は妄想である』

逡巡があったが、やっぱり買って手元に置いておくことにした。序章を見ると、どうやらこちらの問題意識とは結びつかないまま、論が展開されて終わってしまいそうな気がするのだが。不幸な人間がいて、嘘にすがるのだ。西洋社会のエリートが神を信じなくなっ…

似た曲

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でかかるバイオリン協奏曲を、クレジットを見るまで、てっきりチャイコフスキーのだとばかり思っていて、それにしてはチャイコフスキーらしくないなどど見当違いの感想を抱いて鑑賞していた。なんでこんなに似ているのかと…

内部と外部

なにしろその人生の初めから手書きの経験がないという世代が(私のことだが)、もう30歳を越えているのだ。安部公房の談話集『死に急ぐ鯨たち』で、インタビュアーの小林恭二が小説執筆をワープロではじめていて手書き経験がないと話したのに、安部が驚い…

泉麻人のウルトラ倶楽部

みなさん、ばっちりとビデオの方は録りましたでしょうか?(『ウルトラ倶楽部』での泉麻人の発言) このころ私は10歳で、泉の促すとおりにエアチェックに精を出すオタクな子供であった。ああ、私は、その人生のはじめから従順な消費者であったのだなあ! …