『かいじゅうたちのいるところ』

たいていのファンタジーは、主人公が異世界におもむき、経験をつみ立身を重ねて、王女の心をつかみ、王になる。いかしこの映画の主人公にあたえられたミッションは、「他者との愛憎をいやというほど経験すること」なのだ。主人公は異世界にたどりついてそうそうに「王」になる(歴代王たちの末路はなかなかに恐ろしい)。愛憎の経験に洗練や目的はない。ただただ経験を重ね続け、疲労とうらはらの充実を感じるだけなのだ。そのことを知るまでに疲れた主人公は、おもむろに日常へ帰る。つれない姉や母親も、おなじように疲労をかかえつつも充実の日々を過ごしていたことを主人公も知るのである。