2011-01-01から1年間の記事一覧

エゴと心

日本の『猿の惑星:創世記』の宣伝は、薬によって知恵を増した猿が、知恵に加えて人間を思いやる情操も具えたというのに、愚かな人々が彼(猿)を迫害したので、彼が仲間を糾合して人間社会に反抗する、という物語であるかのようなニュアンスで予告編が編集…

『言壺』と『サマーウォーズ』

『言壺』は、そう薄くもない小説集なのに、一度も「表象」という語が使われない。もしかしたら見落としがあるかも知れないが、言語活動を「表象」と割り切ることなく、神林長平が文字表記や音声に制約されることのない「純言語」とでも呼びうるようなものを…

神林長平『言壺』(ハヤカワ文庫JA)

なかなか面白い。もう3/4まで読んだ。 ただ「私を生んだのは姉だった」というのは、歳の離れた姉だと思っていた人物がじつは生みの母であることを知った男の述懐だと考えれば、困難なく了解できると思うのだが…。 言壺 (ハヤカワ文庫JA)作者: 神林長平出版社…

仏めつと三りんぼう

仏滅はもとから漢字で知っていたが、三りんぼうが「三隣亡」だったのを知らなかった。私がいままで見かけていたカレンダーにはだいたい「三りんぼう」と表記されていたのである。それでふと思ったのだが、「仏めつ」表記もまたわりと多いのではなかろうか、…

ある種の人間の機械っぽさ

http://www.amazon.co.jp/review/R1GAMJ5GDRM139/ref=cm_cr_pr_cmt?ie=UTF8&ASIN=4122035945&nodeID=&tag=&linkCode=#wasThisHelpful 小谷野さんのこのやりとりは私にはちょっと面白くて、この「キルステン」さんの「まさ」さんへの応答が、直近に読んだビン…

拡張する世界

ムイミさんが円楽(先代)の名を出したので、ふと思い出したのが「わかたけ」である。なぜひらがな表記かというと、子供の頃の私はもっぱら笑点で、大喜利メンバーによって揶揄されつづけるこの「わかたけ」が何のことであるのかまったく理解できなかったか…

タイプ分けが躓きのもと?

抑え込むタイプというのも、私は日本人だからそのニュアンスがよくわかってしまうけれど、要するに諍いが表面化することを厭うて安易に忍従してしまう臆病さを、口当たり良く言い換えたにすぎないので、私はそういう表現は好きではない。 私は『小三治』とい…

はしゃぎを自制できない・おちこみを振り払えない

kokadaさんが春日武彦の本を紹介していて、私は吉永嘉明の『自殺されちゃった僕』の文庫版解説で、春日に対しては悪い印象を持っていたので少し気になった。談志の高座が躁なのかどうかといったことはどうでもいいことのように思う。落語は彼の仕事だったの…

既視感について

なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学作者: ダウエ・ドラーイスマ,鈴木晶出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/03/26メディア: 単行本 クリック: 12回この商品を含むブログ (12件) を見る12章の、「「楕円形の鏡のなかを私たちは…

一人称を二人称のように使う

これはメモ。ついさっき渋谷のユーロスペースで『明日泣く』を見てきて、これは面白かったのだが、それはさておき、劇中で覚せい剤を吸引しようとするヒロインの汐見ゆかりを、主人公の斉藤工が制して「そういうことはてめえの家でやれ」と説くのだが、この…

『東海道五十一駅』

「ロクシィの魔」という短編が未読だったので借りたのだが、その経歴に田中康夫をモデルに求めたりもしている中堅作家が主人公の小説で、彼は睦月影郎と小谷野敦自身を作者がこきまぜたとおぼしい存在だ。作者が別の場所で激賞した睦月の情事日誌は、私はこ…

『母子寮前』を単行本で再読した

以前読んだのは雑誌に掲載されたときのことで、しかも立ち読みだったのに、本文のだいたいが記憶に残っていたことに驚いた。立ち読みで熟読していたなんて、本屋には迷惑な私だったと思う。 初読時から印象に残っていた箇所がふたつあって、単行本では41ペ…

王兵(ワン・ビン)監督『名前のない男』

地面に穴を掘って、そこで暮らす男を、カメラは追う。その映像は100分近く続き、そして男は画面の奥へ去っていく。 どうやら男は気が触れているのか、それとも発狂しているのか、他人と交流する一切の意思を欠いているように見受けられる。画面外の、カメ…

放言

なるほどたしかに中国は儒教が必要な国なのだな、ということをワン・ビンの映画を見て思った。人々の自己中心性が、規律や社会体制を要請する奇妙な逆説。韓流の映画作品がハリウッド風味を、中国や日本より巧みに取り入れているのも、韓国に、隣国よりも深…

『天皇ごっこ 見沢知廉たった一人の革命』

かなりいいと思ったので、御紹介する。いま感想をノートにしたためているのだが、下書きをしてまで論じたいと思った映画は久しぶりである。この日本の社会で、自分が不完全燃焼していると感じているような、燻ったやつらは、みんなこの映画を見に行くべきで…

自転車

きのう友人が、東京は自転車で移動するには諸々具合が悪い、という話をしていて、帰宅してから小谷野さんのブログを覗いたら、やはり似たような話題を書いている。 私は中学高校と東京のはずれのほうに住んでいて、自転車のヘビーユーザーだったが、都心のほ…

『カウボーイ&エイリアン』、アメリカ人が紡ぐ架空の「本土決戦」

興味深いという意味で面白い映画だが、楽しめるかどうかは微妙である。そういう映画だった。 『アイアンマン』のシリーズを見て思ったことだけれど、この監督はVFXをつかって中年の、しかも男の話をすることに深く魅せられているようだ。マチズモの現代的表…

映像を表現ではないとみなす場合

養老孟司の『形を読む』を読み直していたら、「人間は、アウトプット、つまり情報の送り出しに関して、ほぼ完全に骨格筋に頼っている。これは、注目すべき貧弱さである」という表現に出会って、私は刺激をうけた。 映画は骨格筋の作用ではないという点をもっ…

報復の不安

電車のなかで週刊ポストを読んでいたら、財務省の研究という特集記事があって、財務省は大臣をいいように操縦するための籠絡の手段として、大臣に、わざと重要な情報を教えないことで、かれを国会答弁の場などで恥をかかせて、心理的に制圧して自分たちのい…

解像度と動き

仕事まわりであれやこれやと忙しくて、あまりブログに書くことも思い浮かばないので、映画のことを書くしかないのだが、映画の映像の解像度は、何が正しいのかなあということ。 もちろんこういう問題設定が、そもそも当を失しているもので、映像は映像でしか…

立つ瀬ンテンスがない

某所で「センテンスに立つ」という表現をみたが、これは「コンテクストに立つ/よる」の誤用ではないか。あるいは「コンセンサスの上に成り立っている」などと言おうとして言葉が出てこなかったのか。

『監督失格』

どうせソフト化されてレンタル店で借りられるだろうから、劇場まで行かなくてもいいか、などと思っていたのだが、矢野顕子が音楽を担当するときいて、そのミスマッチな感じがおもしろくて、それからは公開を待ち遠しくおもっていたのである。 私は1976年…

『コクリコ坂から』

かなり感動した。こういう映画が出現する世界の妙、時の流れの不思議さ、を強く感じた。 政治というのが、舞台劇、もっと言ってしまえば、歌合戦のようなもの、という駿翁の認識はもっともである。この作品の時代設定である昭和38年頃には、大島渚(そうい…

瘋癲

そういえば、『瘋癲老人日記』から、フーテン族を経て、「フーテンの寅さん」へ至る「瘋癲」の変遷というのもある。「てんきょういん(癲狂院)」なんて、今時、いきなり聞かされても、なんのことか判らない言葉だ。 寅次郎というキャラクターを、テキ屋とか…

やさぐれ

冬のやさぐれはきついもんね。じゃあね。(荒井晴彦脚本『ハードスキャンダル 性の漂流者』) やさぐれるというのは、なんとなくニュアンスは判るのだが、意味が分からなかったので用心して使わないでいた言葉だ。 私は「やさ」の意味を知っていたくせに、「…

『ツリー・オブ・ライフ』

リチャード・ドーキンスが、神を信じないながらもことさらに宗教を攻撃しない一般人たちを「彼らは神は信じなくても、信仰は信じているのだ」と苦々しく表現したことがあったが、まさに、この映画は神を信じない人にも信仰の大切さを訴えようとした宗教映画…

なんだかな

http://twitter.com/#!/tonton1965/status/102425458301353984キリスト教の神様は、自分の姿に似せて人間を作ったのだから、人間は神の栄光をたたえるために、動物のように性をむさぼってはいけない(実際の動物の行動がどうであるかはさておき)という建前…

『A3』

私たちオウムの外部の人間は、一般的には、オウム真理教事件を、あの教団が順次凶悪・強大化していくプロセスとして把握しているが、しかし、内部の幹部信者、たとえば中川智正などの見方からすれば、これはまったく正反対で、オウムが宗教の組織として、自…

しかし村井秀夫って人はまあ

大変な、というか、困った人だったんだなあ、ということを思う。私が連想するのはルイセンコのような、イデオロギーに従順な科学者である。ルイセンコは村井と違って、親玉(スターリン)に無理難題をのこして死んだりはしなかったが。 『A3』で、早川紀代秀…

もしmailinglistの日記の中の人が岩崎夏海の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』を読んだら

私は岩崎さんという人には、kokadaさんがずいぶん嫌っている人という認識しか持っていなくて、一度もしドラというのを書店で手にとったこともあったが、ずいぶん垢抜けない冒頭に驚いた記憶がある。 で、今日たまたま(http://www.amazon.co.jp/gp/feature.h…