解説をやめられない、「妄想」

中塚圭骸は中一のときに31のオバチャンに童貞を奪われたらしい。その後女装趣味に走ったりもしたそうだが、世界に対して妄想を育めなかったことが彼の不幸としてあったのだろう。一般人は他人と似たような妄想(理想とか目標と呼ばれる)を育んで大人になる。たまに他人とは似ても似つかない妄想を育んだ大人も出るが、ばれなきゃ他人にはわからない。中塚はそのどちらでもなかった。だから彼は「妄想にとらわれた状態というものを外側から妄想すること」で自己をささえて生きてきたわけだ。妄想は基本的に他人に解説できない。だからこそ妄想なのだ。吾妻ひでおロリコンから卒業できないように。しかし中塚は自分の妄想歴について無限に解説しつづけなければ収まらないわけ。

「弟子入りした以上、師匠に肖って同じように子供を作る」。そこまで徹底するのかと吾妻が絶句するあたりが、この本の白眉だろう。中塚は真人間になったのではなく、自分の妄想をさらに押し進めたのだ。ワナビーの鑑である。

失踪入門 人生はやりなおせる!

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