天と地と

 この本を読んでいるのだが、原文に読みがなをふったものと、現代語訳が交互に載っているのだが、現代語訳の方が、神話らしさを強調するあまりなんだか変なことになっているような気がするのだ。

 原文の「高天原」にたいして、現代語訳は「天上界の高天の原」としているが、天上界というのは余計なのではないの?

 「国之常立神」は「国土の永久を守る神クニノトコタチ」にされてしまっているが、これもやりすぎなのではなかろうか。

 日本の天(あめ)というのは、せいぜい山の高さのことだったのかもしれない。あまぐも、というくらいだから、低い雲あたりの高さとか。

 日本の神話の空間感覚は、ひたすら「横」なのだという気がする。縦はせいぜい山の高さから海の低さまでのようなのだ。天地創造のまえからなんで高天原があったのか前から不思議だったのだが、天神(あまつかみ)がもともといて、自分たち(古事記の記述者たち)が行けないところが高天原だったというだけのようなのだ。

 淤能碁呂嶋は天沼矛からしたたった塩がかたまって出来たものであるらしい。ここでもこの本の現代語訳は「天の浮橋」の下は「地上」で「海水」なのだとしているが、原文では「天浮橋」の下がどうなっているのかなど一切描写していないのだ。

 天などと聞くと、つい私たちは「とてつもなく高いところ」をイメージしてしまうが、日本の古代にはそういうイメージはなかったのではなかろうか。まあ実証のしようもない話ではあるが。