『プリオン説はほんとうか?』

 狂牛病の原因を説く異常プリオン説は、じつは生物学の常識を越えた説なのだが、代替説を他の科学者が提出できないので、現状では正統な学説として扱われ、提唱者はノーベル賞を受けてもいる。

 よりきれいに現象を説明できるからといって、基本的な学問の原理から逸脱した考え方を認めてもいいのだろうか。著者は生物学の原理から逸脱しない、狂牛病ウィルス説を実証するために日々研究を続けている。

 著者は、エイズウィルスはエイズの病原体ではないとする説を披露する分子生物学者マリスの自伝エッセイを翻訳してもいる。病気の発生機序(感染したら必ず死亡)と、臨床の実際(感染してもなかなか発病しない感染者もいる)の齟齬は、小学生だった私にも不審だったが、新聞やテレビはまったくそういう疑問に応えなかった。

 放射能もみえないが、細菌やウィルスだって目に見えない。私たちの生活は、見えないあれこれに規制されているのだなあ、ということをぼんやり思わざるをえないのだ。

 しかし、事実というか、事項というものを、それとして扱うために、どうやって区画すればいいのかな、ということを思うのだ。私は、「事実というものはない」派に傾きつつあるのだが、「事実はない」と言い切るのもウソだよなと思うので、要するに困ってしまう。