リンチを日本人はどう見たか

 いまの目で「エレファントマン」を観てしまえば、メジャーに臆せず自己のセンスを盛り込んだリンチの勇気を作品に見ることができる。
 当時の、それも日本人は「エレファントマン」を、どう見たのか。
 冒頭のニーノ・ロータ調の音楽や、後半の見世物芸人、風の過ぎる音などから、当時の評論家は、容易にこの新人監督がフェリーニフォロアーであることは見当がついたであろう。
 橋本治は「この新人監督は、感動ものをやりたかったというより、奇形で遊びたかっただけ」と書き残しているが、これはこれでひねくれていて、すなおではない。悪ぶっている。韜晦している。
 エンディングの宇宙空間など、とおく「ストレイト・ストーリー」に響いている。「ストレイト・ストーリー」は、リンチの作品歴にあって特異なもの、ではないのだ。
 「エレファントマン」と「ストレイト・ストーリー」に共通するのは、離人症ヒューマニズムとでも言えようか。
 ちょっと「エレファントマン」初公開時の批評を発掘したくなってきた。