なつかし地獄

また実家に行って、いろいろ引き取ってきた。

若い頃のエアチェック・カセットを聴くことにはまってしまって、ここ数日レトロ・ヘルに飲み込まれてしまっている。

もう気がちょっと変になってしまっていて、家に帰るのにも、荷物が多すぎるので、贅沢にもタクシーを呼んでいるのだが、中野や高田馬場の近辺を通るたびに、ここらを自転車で行き来した十年前がしきりに思い出されて、感慨深いというか、やはり、気がちょっと変になっているのだ。

わたしは、二十代、ずーっとひきこもりぎみの消費者だったんだなあ。ただの、消費者。恋愛しようと思ったこともないし、ましてや結婚など考えもしなかった。消費と鑑賞に消尽したのだった。ちっぽけなお大尽だった。

十年以上前にエアチェックした、サミュエル・バーバーのピアノ協奏曲を聴く。当時は、貧弱な一体型の廉価なコンポで録音したFM放送の音楽が、なつかしいテープ・ノイズとともに、そこそこ高価な(中古で安く買った)テープデッキと、アンプで再生されて、いまもういちど聴くということの不思議な感慨。

私にとって、70年代とか、ましてや60年代とか、十代も半ばを越してから親しみはじめたカルチャーなので、それらは、80年代文化や、90年代文化よりも、相対的に「新しい」のだ。