不思議を信じて、幽霊は信じない

より正確に言うなら『俺は、君のためにこそ死ににいく』の終わりの靖国神社の特攻隊員たちは幽霊ではないのだ。蛍が群舞していて、岸恵子が隊員たちを幻視するのだ。

私の思い込みで、実存主義者は霊など信じまいから、あの映画でも特攻隊員たちを幽霊として表現しないだろうという偏見があったものだから、じっさいに映画をみてあれっと思った、というのはあったのだが、いやいや、やはり実存主義者の書いた脚本である。石原慎太郎はたぶん幽霊を信じていない。不思議は信じているだろう。

私もあなたも、たぶん熱心には国家を信じていなくて、なおしかし日本政府からの便益をなにがしか受けて生活しているこの状況は、国家にしてみれば、私たちのほうこそが、おのれにとりつく寄生虫ないしは幽霊にみえているのではないか、という気がするのである。ガイア仮説における地球ではあるまいし、国家に自意識などないわけであるが…。