『ダークナイト』ショック

ノーカントリー』が早くも色あせた感じ。コイントスで殺しを決断する「アントン・シガー」は、そういえば「ツー・フェイス」でしかなかったわけだ。『ノーカントリー』を追撃するように『ダークナイト』が登場して、ハリウッド映画は、にわかに「CG世代によるアメリカン・ニューシネマ」の時代に突入したかのようだ。

ダークナイト』が本国でああも受けたのに驚いている。アメリカが、世界に何を発信していいかわからず呆然としている感じが『ダークナイト』からひしひしと伝わってくる。9.11を連想させるシーンや映像が頻出するのも、この感覚を解禁しなければ、指輪だの海賊だのと、私たちはますます偽善的になっていってしまう…という彼らの焦りを感じるのだ。

日本の格差糾弾業界はまさしく糾弾する以上のことをしないわけであるが、どうよ、世界のジョーカーたるアメリカの観客は、ちゃんと『ダークナイト』を支持することで、ある意味「気を吐いた」。大富豪のバカ息子とよくわからないまま結婚して妊娠した女が、浜辺に落書きをする映画をヒットさせた日本の観客たちとのなんという違いであることか。「糾弾する」か「耳をふさいで心地いい物語に引きこもる」だけの日本人は、あれやこれやを「信じる」だけで、マジに沈没していくんじゃないか…。