模倣の欲求と犯罪と文化


ジョーカーがバットマンに、紆余曲折の後に憧れを表明したように、無用の犯罪というのは模倣の欲求なわけである。ジョーカーは、なにしろはじめからトランプの絵札にみずからを模倣しているのだ。悪をこらしめるものに魅せられた自分は、悪を解放するものとなる! ジョーカーが目覚めた瞬間である。


模倣の心地よさはつまりは文化であって、白洲正子を読んだばかりの私は、折口信夫が「伝統」とも呼んだ、やられたことをやりかえすことの「自然さ」をつい思ってしまうし、それはハーベイ・デントがその身をゆだねた心地よさでもある。速やかに模倣しなければならない! やつあたりしなければならない! 人はその痛みを自分ひとりで持ちこたえることはできないのだから…。