カオスに似て非なるパトス

ダークナイト』2回目の鑑賞。


あれ、なんだか興奮しないぞ…。


おちついてふりかえったら、劇中の事件がすべて冒頭の銀行強盗から玉突きのように派生しているのだ。これだと、ジョーカーがなんだかとても計算高い人物のように見えてきて、これがほんとうにカオスの使者なのかといぶかってしまう。


前作『ビギンズ』は、いくつかのエピソードを総合しきれずに凡作に終わった感があったが、こんどはあえて一本調子にして、ノリで押し切ってみたというところなのだろうか。


まともな社会人の心の奥底にある悪意をあぶりだすというジョーカーのもくろみは、ようするにテロをおこして人心を不安に陥れればいい「だけ」であって、それほど高尚な哲学ともおもえない。実際フェリーの市民たちを善人として描いたことで、クリストファー・ノーランは勝負から逃げているのだと言ってもいい。この映画の前半から考えれば、フェリーの片方が爆破されて、ゴッサム住民はみんながバットマンの扮装をして互いに殺しあいをはじめて、ブルース・ウェインがその黙示録的情景を呆然と見下ろす、というエンディングでなければ駄目なのではないか?