『蛇にピアス』(映画版)

かなりよい。セックス描写が、他人の体を使ったオナニーの延長にある行為のように描かれていて、ちょっと面白かった。それこそ真実味を感じたのである。偽善的なところは一切ないけれど、奥行きも一切ない人間像。つまり、登場人物が人生に対して味わいを感じていないのである。舌に穴をあける女の話だけに、それも正当という気がする。

食べ散らかしたコンビニ弁当を片付けない部屋を見て、食べることと味わうこととの関係を思う。味わうことは食べるための方便なのだが、味わうことが目的化した都市生活において、かえって味わいが消失し、食べることの重要さが、つまりは索漠たる現実として、主人公をして拒食症に直面させるのだ。シャブでぐずぐずになったヤクザの歯を容易に砕いて、その粉末を主人公は恋人との絆のあかしとして嚥下する。食が、味わいすらこえた、意味づけの領分に侵された瞬間である。

あと、蛇行する列車を正面からとらえて、蛇を表現するのは見事でした。