『消されたライセンス』

むかし橋本治が『’89』で変な難癖つけていたなあ…。

冒頭のシーンなんか、ロケ地がおなじなので『トゥルーライズ』を連想したりするが、ジェームズ・キャメロンって、けっこうこのシリーズに影響うけてる。中盤の減圧室のシーンなんかも『アビス』を連想するし(これはほぼ同時期の作品だから影響関係ではないかな)。

2009年の現在にこの作品をみると、ベニチオ・デル・トロがその後『トラフィック』に出ているのを知っているからなんだか笑える。金目当てのいかがわしい宗教が出てきて、これはちょっと『動く標的』を連想したりした。あっちの宗教はたしかテレビを利用してはいなかったと思うので、つまりはこういうのもそれだけ進歩していたわけだ。

1980年代の映画だなあという、あたりまえの感想…。そろそろ戦争を知らない世代がボンド映画の悪党になる時期で、この作品のロバート・ダビも、要するに楽しそうな悪役なのだ。享楽になんの負い目もこだわりもない。『消されたライセンス』の六年前の作品『スカーフェイス』を思い出したりもする。ダビは冒頭のスパンキングのシーンや減圧室による処刑のシーンなどに見られるように、明るく病んでいるのだが、ジョン・グレンがまっとうな人なので(たぶん)そのへんは深く追求はされないのだ。同じ脚本で、マイケル・マン(当時『刑事グラハム/凍りついた欲望』を撮っている)が監督していたら、もっとダークになっていただろう。

私は、麻薬なんて作るやつも売るやつも悪いが買うやつだって悪いと思う方なので、この映画のロバート・ダビはそんなにワルにみえないのだ。手広くやってますなあとしか感じない。宗教は麻薬とマルクスは言ったそうだが、この男、どっちにも抜かりないので笑うしかない。

ボンドの動機が私情というのは、ダニエル・クレイグのシリーズにも通じるわけで、つまり隔世遺伝なんだ。ピアース・ブロスナンロジャー・ムーアのシリーズの1990年代版だった。