『身も心も』

関谷善彦がまねする岡本良介の仕草(タバコにパイプをつける)が面白い。テーブルにパイプを立てて、そこにタバコをつきたてる。フロイト的な連想もはたらく。

謝国権というのは知識のうえでしかしらない(けれど字面は空で出てきた)。私はダイヤグラムグループの『ウーマンズ・ボディー』を隠れ読んでいた。私の場合、本をとりあげられたことはなかったが、隠れて性科学書を読んでいたことまで母親が察していなかったかどうかまでは、分からない…。

ようするに私の親たちは人生をどうみていたのかを考える手がかりとしてこの映画を見たのである。私の母はまじめな人だったから、どちらかというと劇中の加藤治子演じる岡本の母に近い。そして岡本稲子が岡本良介を理解していないように、私の母も私を…。

無力な人間でも、言葉はつむぐぜ。そういう話だったのだろうか。この無力感はへんに実感がこもっている。アパートの前でまっていた娘に関谷善彦がかけよる瞬間に世界は静止する。時間よ止まれ、おまえは美しい。この「おまえ」は娘のことではなかったけれど。

どうしていいかわからないんです。この訴えを、子供の世代である私は、まあ聞きました、そういうしかない。親の世代がこうだったから、私は、自分勝手に生きることすらできなかった。自分勝手ということがどういうことなのかすらわからなかった。

セックスシーンが、凡百の映画のそれと違って、権力的ではないのが目につく。正直だと思う。しかし、正直だからいいという気にはなれない。それと関谷と原田は、やはり、生でやったんだろうなあ。まだあがってないだろうに。

身も心も [DVD]

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