『ノーパン通勤 脱がせて』

高校を中退して、中古レコードショップのバイトをしていた主人公は、OLの愛人をこなしながら気楽に生活しているのだが、満員電車で痴漢をする悪癖があった。バイト生活の片手間にDJを目指したりしているのだが、半端な入れ込みようで(DJセットを床において尻をついてやっているのだから身が入るわけがない)、クラブに出ても観客の反応はいまいち。

そんななにもかもが手応えなくすぎてゆく日々に意外な女があらわれる。高校の同級生だったと名乗る女は、主人公をひきとめて、女の姉についての身の上相談のような話をはじめる。姉は妻子ある男の子を身ごもってその子を産もうとしているが、本当にそれでいいのだろうか。曖昧な返事しかできない主人公。その後友人にその女について尋ねたら、その女は主人公が高校をやめてすぐに死んだとのこと。あの女は幽霊だったのか。

じつは女は別人で、死んだ同級生を騙って、偶然出会った主人公に自分の話を聞いてほしかったのである。妊娠した姉とは本当は自分のことで、いま自分が妻子ある男の子を身ごもっていたのであった。主人公はいまだに愛人と本気になれない関係をひきずっていたが、愛人の方が愛想をつかしてしまう。電車内で愛人にも痴漢をしかけた主人公は、事情をしらない私服婦警に逮捕されるのだが、愛人はなにも説明せずに連行される主人公を見送ったのだった。

ゆるい絆に胡座をかいていた男が、そのかすかな連帯をも失ったとき、あの妊娠した女に再会する。主人公は出会ったのちに事実を悟ったことを女に告げ、彼女に執着をふりむけるが、すべてを半端に過ごし何事にも本気で対峙したことのない男に、新生活を決断した女を翻意させるような情熱などあるはずがないのであった。女は主人公を拒絶する。茫然として、駅をさまよいでた主人公は真っ白に照らされた街を彷徨するのだった。

この最後の主人公の執着をふりきる女のシーンがすごいのである。片側の座席を一本まるまる人払いして撮っていて(どうやったのだろう)、女の太ももをまさぐる演技が心情こもっていて、しかし感情的な対価を女に払っていない一方的な妄執であることも伝わってきて、これは素晴らしかった。