『沈まぬ太陽』(映画版)

 なかなか良かった。あの有名な、墜落の間際に書かれた乗客の手記には、いつも涙がポロポロ出てしまう。役者の芝居を味わう映画なので、その意味では存分に楽しめたが、リアリズムの感覚は薄い。料亭のシーンなど、二十数年前を舞台にした時代劇のようだった。

 戦後についての話、だったのだねえ。原作小説は未読。うかつな話だが、まったく興味がなかったので、日本航空という企業が、半官半民の組織だったなんて知らなかった。戦後、航空機も列車も、わりにちょくちょく事故を起こしていたことを紹介しないと、組合運動のことを、若い観客は理解しづらいのではなかろうかと思う。

 仕事をしやすくするために金があるのに、本末転倒になってしまった戦後日本のお話。航空機なんてぜいたく品には、旧国鉄のような社会民主主義は合わなかったのではないだろうか。作品の主張を全否定するようなことを思ってしまった。飛行機なんて金持ちだけが乗っていればいいのに…。

 西村雅彦や渡辺いっけいらがクルーザーで新年を祝うシーンだけ、アフレコの出来が雑だった。たぶん撮影を断られたのであろう旅客機のCGは、いかにもCG然としていたが、べつにこういうののリアルさを競う映画じゃないしな…。