『ゼロの焦点』(犬童一心版)

金沢市マクベス夫人…。

 かなり良かった。犬童監督は『ジョゼ』とか『メゾン・ド・ヒミコ』とか『黄色い涙』の監督として認知していたが、今作はそれらとずいぶん違って、デ・パルマっぽい。

 犯人は原作と同じなのだが、ストーリーが後半かなり変わっている。木村多江の扱いなど、ずいぶんキリスト教じみていて(エンディングも中島みゆきが、愛だけを残せと歌っている)、清張が見たら気を悪くするのではないかと思ったが、まあ、清張はとうの昔に死んでいるしな。

 そうしてしまうとそのあとの広末の見せ場がなくなってしまうのは百も承知で、中谷美紀は壇上で卒倒したときに頓死すればよかったのにと思った。ここまで変更するのであれば、海で死ぬ必要、ないじゃない。

 深夜の室田邸における中谷の狂乱演技は、『沈まぬ太陽』の渡辺謙の錯乱芝居と双璧…。

 前半から後半のかなりのところまで、中谷が老けメイクで、私は「『ケイゾク』のころ好きで見てたのに、ずいぶん時間がたったものだな…」と感慨に耽っていたが、あの演説シーンで中谷は急に若やぐのである。ここは唸った。反対に、いまだに幼さがぬけきれない広末涼子が、そのシーンに限って、中谷を見上げるその顔が、ずいぶんと老けて見える。

 現代のシーンは、監督がずいぶん踏み込んで時代批評しているなと思ったが、これにもデ・パルマじみた仕掛けが用意してあって…。