『フレンジー』再見

話の展開が、ああでもないこうでもないとぐずぐずするあたりは、いままではヒッチコックの老いだと思っていたが、若いころの作品を見て、そうでもないということがわかったので、今回興味深く再見した。


『殺人!』の、事件現場にやじうまとして駆けつけたいのに、ストッキングがなかなか履けなくてイライラする女(の足)を、30歳の頃のヒッチコックはじっとみつめていたりするのだが、そのヒッチコックは70歳になってもまったく衰えていなかったということだろう。裸を露骨にだしていいだなんて、いい世の中になったもんだなあとでも思いながら撮影にはげんでいたのだろう。ヒッチコックにとってハリウッドはコルセットだったのだ。


最初に殺人をはっきり描く(しかし引きのカットはない)、つぎの殺人はまったく写さない(しかしシーンは省略しない)ことでかえって観客に強い印象をあたえる、さらなる殺人はそれがおこったことを事後的に知らせるだけ…というのが、今回のヒッチコックの演出上の眼目だったのだろうか。捜査について夫婦が晩餐の席で検証しながら、夫である警部がいちいち肉料理にナイフをつきたてたり、食べたふりして料理を「証拠隠滅」するあたりも面白い。


つきに見放された主人公がさらにいろんな関わりを奪われていく物語は、名声が朽ちつつあった当時のヒッチコックの心象風景でもあった。