『エディプスの恋人』

20年ぶりの再読。手部高校というのがテーバイのもじりであることすら中学生の私は分からないで読んでいた。思いのほか文体が村上春樹に近いなあ。村上が筒井から影響を受けたというよりも(しかし読んではいただろうが)、筒井も村上も旧来の近代文学の文体から遠ざかった結果たまたま似てしまったということか。エディプスの恋人とは母親のことだという、わりと明瞭な謎かけが、しかし私の心にはいままでまったく浮かんでこなかった。なんだろう、連想を抑圧する動機が私のなかにあったのだろうか。この小説から後、筒井康隆はわりとふつうめの娯楽小説から遠ざかってしまう(『歌と饒舌の戦記』などはあった。あ、あれを真面目に書き直したのが村上龍『半島を出よ』と言えるかも。そんなこと言ったら『饒舌』自体が矢作俊彦大友克洋『さよならにっぽん』の別バージョンのようなものだが)。『七瀬ふたたび』は映画化できても、こちらのほうはちょっと難しいだろうな。