香川頼央の述懐

『エディプスの恋人』の後半を占める香川頼央の述懐には感動した。13の餓鬼にはさすがにこれは難しかったろう。40過ぎの男の述懐としてこれは相当に濃密なものだ。関西に帰ってやっと落ち着いた筒井自身の正直な気持ちも少なからず盛り込まれているだろう(頼央が珠子を失ったように、筒井も最初の子供を流産で失っている)。ここまで吐き出してしまったら、普通小説でやれることは他にはちょっと思いつかないだろう、ということで筒井にとっても幸運なことに、この小説の後に、あの1980年代がやってくる。『唯野教授』の、パロディ全盛の、あの時代が。