日本の大人の人たちが、おっかなびっくり、パロディの世界に進入していく…

蒲田行進曲 [DVD]

蒲田行進曲 [DVD]

蒲田行進曲』というタイトルで、しかも松竹が作っているのに、東映の撮影所が舞台で、監督も深作欣二。すごくねじれてる。

懐かしい。子供の頃テレビで見て以来だ。とりあえず1980年代をやりすごした、それどころか2010年代に入りはじめた今の目から見れば、当時の日本の「大人」たちが、他に何をやるあてもなくなり、当時の「若者」たちが遊んでいた「パロディ」を、自分たちも見様見真似でやりはじめた感じが、よく伝わってくる。

安が小夏をつれて帰郷するシーンがいい。やはり映画はエキストラだなあ。こういう朴訥な顔は、もう、北朝鮮にでも行かないと拝めないかもしれない。

特攻隊のことを仄めかすような展開になる後半が、前半からまるきり転調していて面白い。前半パートの物語の目標は「銀ちゃんを出世させること」だったのが、後半であいまいになってしまう。忠義のテーマが空転してしまうのだ。あまりに銀ちゃんに忠実であることが、銀ちゃん自身を追い込むようになる。天皇を崇拝しすぎたせいで天皇を叱咤するにいたった二・二六事件の将校のことを想起しもする。

病室のセットが「ばれて」また大階段があらわれてレビューへ、というエンディングの流れは、この時点でもう十年も前に寺山修司がさんざんやっていたことで、作者たちはとりたてて気の利いた趣向とも思っていなかったろう。反抗の牙が抜かれてパロディへ。しかしそのパロディも、それでじゅうぶん時間が過ごせるほどに楽しい作業ではあった。この時点で、昭和の天皇が死ぬまで、あと7年もの時間が残されていた…。