結論を出そうとすれば…

結婚失格 (講談社文庫)

結婚失格 (講談社文庫)

すけべ根性がつい出て解説と冒頭だけ立ち読みしてしまったのだが、う〜ん。いま丸谷才一『笹まくら』を読んでいるので、どうしても比べてしまうのだ。丸谷の小説は『結婚失格』と題しても、それほど違和感のない内容だし。

これはまったく小谷野さんと同意見というか、著者は「正しさ」に逃げ込んでいるというよりも、Bookishな世界に微睡んでいたいだけだろう、と思うのである。だから解説者の批判もまちがっている。

生きていることに結論はないという味気ない事実にたいして、しかし著者は「細かな結論とその再検討(ようするにツッコミ)」を周囲にばらまくことで、結論のなさという茫漠さに直面することを回避しようとしている。スイカのキャラクターの配色が経済的か否かなどということはくだらないことだ。本を読む、ツッコむ、本を読む、ツッコむ…。

反対に解説者のほうは結論を出そうと焦りすぎている。そんなに昔の人が律儀に通過儀礼を敢行していたとは、とても思われない(『笹まくら』は兵役忌避者の物語)。それは過去の事実ではなくて、あなたの願望なんでしょ、としか思わない。町山さんが枡野さんに家出をインセプションしようとしているわけだ。通過儀礼うんぬんのゴタイソーな話は、だれかが著作という名の夢の中で町山さんにインセプションした確信・観念なんだな。

まあ「1990年代に20代30代だった東京人の、あの感じ」というのは、なかなか文章で表現できないので、自分としても課題だなと思うのだけれど。