「そっちのほうか」

身分制かなにかについての話で小谷野さんは「時計職人の息子でなにが悪い」と言っていて、もちろん内容についてはそのとおりなのであるが、ついここで読者である私は、小谷野さんが父親のことを尊敬しているのだと勝手なはやとちりをしていたのである。そういう読者は私のほかにもわりといたのではないかと推測する。しかし、上流の女へのあこがれを同時に表明してもいた小谷野さんが、のちのち父親とうまくいっていないことを表に出してくるのを意外に思った私は、どうも迂闊な読者であるようだ。