日本橋へ

京橋に用があったので、日本橋まで足をのばしてみた。

とても寒い。中央通を京橋から日本橋にむかって歩く。スルガ銀行に気温表示板があって、14:01の気温は4度だった。傘をもつ手がかじかんだ。

コレド室町など眺める。さすがに表通りの建物のエクステリアは、新宿や渋谷とはちがって品がある。

江戸通と交差したら右へ折れてずっと両国橋(兩國橋)まで歩く。いくら土曜の午後といっても、シャッターを下ろしている店がずいぶんあるなと思う。

両国橋へ着いて、隅田川を眺める。これが隅田川なのか。当然というか、なんの感慨もわかなくて、あのくらいの堤防を「カミソリ堤防」と呼んだのかと、しばし呆気にとられる。

私は写真や映像でしか東京スカイツリーを見たことがなくて、やっと本物を拝めるかと思っていたのだが、とうの建物は、たれこめた雲にすっぽりと隠れてしまっていた。

そしてすずらん通りを歩く。みごとに何もない、といっては小林信彦に失礼だが、住宅と商店とマンションだけの区画であった。清潔で、ぴしっとした感じはする。空き地のようなものがなく、建物がこみいっているのだ。

大林宣彦『理由』などでみた超高層マンションが建つ理由は道幅にあって、ここらの表通りの道はとても広いのだ。渋谷や新宿に慣れきっている身としては、東京ではないみたい。広いからってあんなすごいマンション建てちゃって大丈夫なのだろうか、と思う。かつての高島平みたいに、おかしくなった人が飛び降りたりしてないのかしら。

帰路で明治座を通過する。観劇を終えたらしいおばちゃんたちが、入り口からぞろぞろ出て来て、明治座の向かいにあるフレッシュネスバーガーの店内を覗き込んでいる「なんだか、中は狭いわね」。

どこか食べるところはないのかと思って、自営の定食屋とかラーメン屋とか、そういう情趣ある店を探したが、吉野家のたぐいしか開いていない。しかたなくやよい軒に入った。男子高校生の二人組の会話がうるさい。受験勉強の話をしているようなのだが、そして東大を狙っているようなのだが、それにしてはその口ぶりからは、彼らの偏差値が高そうにはとても思われないのだ。あと先祖の自慢をしているのに驚いてしまった。祖父か曾祖父が海軍兵学校に入ったとか、そういう話をしていて、いまの高校生ってこうなのか、それともこいつらだけが特殊なのかと目を丸くした。

高校生たちの会話で気分をそこねてしまって、雨の中京橋まで徒歩で戻るつもりだったのだが、すぐに近くの水天宮前駅から地下鉄にはいって、地元の図書館に行ってしまった。『東京少年』を借り出す際に、新着雑誌コーナーを眺めていたら、『文学界』に小林信彦が『流される』を載せていた。