小室哲哉『罪と音楽』

詐欺事件の詳細については関心がなかったのでいままで知らなかったが、この本を読んでも、富裕層のトラブルそのものといった感じでよくわからない。わたしのような貧乏人には理解できない金持ち特有の鷹揚さといったものを感じた。ようするに金額の多寡で社会的影響力が違う、ということなのだろう。この場合の「社会」の埒外に私は存在しているわけだ。

逮捕されてから自由の身になるまでの生活と意見について知りたくてこの本を手にとったのだが、主観的なディティールについてはいろいろ面白いことが書かれてあるけれど、客観的なあれこれの雑事についてはあまり描かれない。私は食い足りなく思った。ただし、こまごました実情をくどくど説明せず例えを用いて要約する著者の癖は、たとえば従順に取り調べに従った著者を、進路指導室における落第すれすれの生徒に見立てるなど、面白かった。引きずられる足から煙が出るマンガのお約束のイメージなんて、私はひさしく忘れていた。本が出てからほぼ一年後、著者と握手して別れた検事は、今度は自分が逮捕されて懲戒免職になる。

著者は容疑者として拘留されても、差し入れの布団がそれぞれ違うところから都合4組も届いたりして選択に迷ったりしている。浮世離れな生活ぶりが面白い。