とはいえ

 すこし前の話になってしまうが、月刊の方の文芸春秋を立ち読みしていて、東日本大震災についての岸田秀のコメントを読むためだったのだが、唯幻論のおさらいが全体の半分近くを占めていて、岸田説に馴染んでいる自分としてはちょっと不思議というか異様な感じがした。

 あるいは編集者が促して岸田はこれを付け足したのだろうか。流行しすぎたせいで唯幻論が忘れ去られてしまっているという懸念が、編集者にあったのかもしれない。もしそういう懸念が編集者か、あるいは岸田自身にあったとして、それはなんとなくわかる気もするのである。精神分析という言葉とか概念が、一般人の間で廃れはじめている感触があるのである。

 まあ変に流行るよりも、このくらい廃れた方が、精神分析にとってもいいことのような気はするが……。