『ブラック・スワン』

 自己実現を追求する自我の葛藤と不安を描いた映画なのかと思った。ライバル?のバレリーナがそうしていたように、たまにははめをはずして生活するほうが気が楽なのである。主人公は自己実現を人生の至上目的とするために、セックスもアルコールもドラッグも拒否する。

 この映画の結末は、あるいは日本人の目には悲劇にうつるかもしれないが、どうしてどうして、ハッピーエンドなのである。他者と交流しながら怠けつつも生き延びる道を、自我が強引に塞いでしまった。西洋人が、自我とか主体性にこだわることにほとほといやけがさしつつも、代案がみつからないので、まいったなあと頭をぽりぽりかいている様子が目に浮かぶ。映画の作り手たちは、こっそり忍び足で、自殺を肯定してみせているのである。佳作。