かんしょうじゅつ

 オレは映画の料金って高いと思ったことがない。といっても、安いと思っていたわけでもない。

 オレは子供のころはテレビでしか映画をみたことがなくて、たまに連れていかれる映画現象を「現実」だとしか思えなかった。「映像」として受け取れなかった、ということだね。

 子供の頃につれていかれた映画は、『スーパーマンII 冒険篇』(パンフに手塚治虫がエッセイを書いてた)と『マネーピット』(CMでドリフの仲間かと思いこんだ)、リバイバルの『眠れる森の美女』、『殺人狂時代』くらいしか憶えていない。邦画ゼロってのが、私の親らしいところだ。

 映画の内容については、実は何の感動も印象もない。だって、生まれたときから浴びるように見続けたのだもの。感性がすり切れちゃってる。「作品」を個々の作品として位置付けるという感性が摩耗してしまって、「類」のものになっちゃってる。

 映画現象を体験するための必要経費。映画の入場料は、オレの思い込みとは別にしても、これはじっさいにそうではある。オレは子供の頃にろくに体験できなかった、映画現象体験を埋め合わせるために劇場に通っていたのだ。その時点で、「映画の中身には興味がなかった」。すでにテレビでさんざん見ていたのだから。学生のころは同じ映画を映画館で10回見るとかやっていたわけだ。

 映画料金が高いと思う人の気持ちは、わからないでもない。しかし、では、もし料金が安くなったら、その人は、現状以上に頻繁に映画館に行くのだろうか。それとも、やれやれ家計が楽になったと胸をなでおろすだけ? 後者については、ちょっとないと思うな。今の時点で、もっと廉価な趣味にのりかえな、と思うだけ。