トーマス・マン『ヴェニスに死す』

予想通り、こちらは、ヨーロッパの死というのは直接の主題ではなかった。世紀末的でもありえたかもしれない官能主義者トーマス・マンの自決の書といった色彩が強い。ここから先よりモラリスティックな芸術家への道をマンは選択するわけだ。

ヴィスコンティは原作とほぼ同じストーリーを語りながら、まったく違う内容を盛り込んでいるのである。もしかしたら単に好事家的な関心から『ベニスに死す』を架空のマーラー伝にしてしまったのかもしれないが、そういう可能性もなきにしもあらずだが、マンの『ヴェニスに死す』をそのまま映画化しても、ちょっと退屈だったろうなと思うのだ。