『黒い雨』から

ことに回覧板は各種の指令通達の動脈であり毛細管であるような役目を果たしておりました。(略)その運営を徹底させるため、隣組の趣旨を織りこんだ歌詞の流行歌が映画やレコードで広められました。その歌詞は「とんとんとんからりと隣組、格子を明ければ顔馴染、廻して頂戴、回覧板、知らせられたり知らせたり」というのが第一節でした。(『黒い雨』新潮文庫改版版77ページ)


ところで、映画がトーキーになる以前に、すでに放送が始まっている。日本のラジオ放送は一九二五年だが、戦前のラジオ放送は現在のNHKだけであり、娯楽に対しては消極的だったらしい。そのことを象徴するのが歌謡曲という言葉である。「公共放送」が特定の歌に流行というレッテルを貼るのは好ましくないという理由から、歌謡曲という言葉を使うようになっている。(大橋正房『広告化社会』毎日新聞社(毎日選書)1982年刊 142ページ)