立ち消えになった理由

相馬正一猪瀬直樹の論争が立ち消えになったのは、「『黒い雨』と「重松日記」が相互に独立した作品である」と主張するのも、「『黒い雨』が「重松日記」を不当に抹消した」と主張するのも、互いに無理筋だと両者が判断したからだ、と私には思えるのだけれども、『<盗作>の文学史』はそういう判断を下さない。その種の踏み込みはしないことを「まえがき」で著者は主張しているから、べつに構わないのだが、じゃあその程度の踏み込みさえしない作業になんの意味があるのかという私の根本的な疑問は消えない。そこの疑問は、私は黒古さんと共有しているのだ。