『松ヶ根乱射事件』
家父長制が消滅してしまったので、混乱するしかない。どうして生きていけばいいのかわからないので、いっそのこと死んでしまおうかとも思う。劇薬は、どこに投下すれば、水道をつたわって、住人を皆殺しにできるんですか?
生と死のけじめをつけることで、日常に復帰する。『ファーゴ』はそういう映画だったが、こちらは、そうではない。闖入者の二人は、ぐずぐずと、けじめなく町にいつづける。死ぬはずなのに、死んでない。もしかしたら、コーエン兄弟の世界ではなく、スティーブン・キングの世界の住人なのかもしれない。
『限りなく透明に近いブルー』で、主人公は、果てが訪れないセックスの悦楽にたえかねて「いかせてくれ!」と叫ぶ。『松ヶ根乱射事件』の男たちは、いきすぎる。いきすぎて、「乱射」しすぎて、うまれた子供の父親がわからない。それでも日常は続いていく。本当に? スティーブン・キングの世界の「日常」かもしれないのに?
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