『フロスト×ニクソン』

確かに面白い。しかし、ニクソンが大量虐殺の犯人だ、とフロスト側のブレーンが叫ぶのを聞くと、ウ〜ンと唸ってしまう。

両者が戦争をおこして、大量の死者が発生した場合は、双方の戦争主体の責任だろうと思うのである。片側だけの責任であるはずがない。ぶっちゃけ、死ぬのが怖けりゃ、さっさと降参すればいいのである。プライドも安全も経済もぜんぶその手ににぎっていたいなんて虫がよすぎるだろう。プライドを選んであとは捨てたベトナムの支配層は、プライドも安全も経済もいぜん欲しいままにしているアメリカのリベラル層には、べつにたいした思い入れも持っていないだろう。ベトナムに対する贖罪意識なんて、世界の支配者のどら息子の片思いでしかない。

メインはフロストの、俗物が改心して努力する物語にあるのだろうけれど、ニクソン並にひがみっぽい私としては、そこは面白くなかった。

フロストとニクソンが、ともに、それと知らずに共有しているルールが、私は気に入らないのである。特定の何ごとかに、何ものかに価値がある、という根深い信仰。

私がこの映画で一番面白かったのは、ニクソンが意に染まない講演を終えてホテルのキッチン裏でブレナンに愚痴るところなんである。そこでブレナンがニクソンに朗報としてフロストの接触を報告する。カンバックの好機到来にほくそえんで、ニクソンが調子に乗る。「CIAで育てたいいキューバ人がいるんだ。そいつを使ってフロストとやらの身辺調査をさせようか」。あっけにとられるブレナン。はしゃいだことに気まずくなるニクソン「冗談だよ」。このくだりは笑った。