死体袋

グラン・トリノ』のある登場人物が銃で撃たれて(しらじらしいな、俺)、倒れて、死体袋に入れられて、葬儀会場で蓋をしないままの棺に入っていて、という一連のシーンがつづけて流れるのだけれど、私は見ていて、お、なんだかイレギュラーなことが画面に起っているぞ、と思った。

たいていの映画では、このプロセスのうちのどれかが欠落するのである。死体袋で私が印象深いのは『オール・ザット・ジャズ』だが、最近の映画では『ノーカントリー』と『告発のとき』だろう。『ノーカントリー』では、撃たれたばかりのある主要人物の姿が画面に映っているだけで、撃たれた瞬間や、解剖室の台に安置された死体は映されない。死体をながめるトミー・リー・ジョーンズの保安官は映っているのだが。

告発のとき』は、解剖台に死体のパーツが並べられるのを露骨に映していて、なかなか怖いのだが、この死体の持ち主がどのように殺されたかは、殺人者の告白によって観客につたえられるだけで、映像にはでてこない。

刑事物には被害者が死体袋に入れられるシーンがよくある。ホラー映画はその逆で、死体袋の中身を主人公がこわごわ確認しようとする(すくなくとも『ザ・リング2』はそう)。

映画的にはイレギュラーでも、より「現実的」な死体表現は『グラン・トリノ』のほうである。