『スター・トレック』

アメリカ人の自画像としてとても面白い。ついつい精神分析の興味をそそられる。
 カークの父が敵艦に特攻したり、老スポックが母星を破壊される場に立ち会わさせられたり、監督は9.11の経験を反復している。あの屈辱をどうにかして合理化し、自分の人生に納得いくかたちで組み込みたいわけだ。
 自分が好きになった女が、ライバルにつく展開も、脅迫反復なのだろう。カークがスポックを挑発する。表向きは、女が理由ではない。自分(カーク)が成長する、父のようになる、そういう話をするのに、わざわざ母親を退場させなければならない現代のアメリカ人の屈折ぶりに、かるく慄然とする。母が退場し、別の女があらわれ、その女がライバルに関心を抱くことで、はじめて主人公はライバルと対峙するのだ。ライバルを克服して女を手に入れるパターンは、とうに過去の話。アメリカ人が成長のしかたを見失いはじめている。母親をうしなった自分を励ます老人は、なんと未来の自分だった。アメリカ人の孤独がいや増している。
 ネロへの最後通牒と攻撃に、アメリカ人の本音がでている。私は見ていて気味が悪かった。千回滅ぼされても助けは乞わない。日本人もかつては七回生き返って国に尽くす(アメリカに逆らう)と言ったものだが…。