幻想の核家族

明治の理想すなわち幻想が大家族で、大家族をつくるために人々は立身出世を夢見た。戦後昭和の理想が核家族で、核家族の住処としての一戸建て、文化住宅や団地がブレイクした。

 明治の文学は、大家族の幻想におしつぶされそうになった個人の逃走劇だと思うと、ずいぶん見通しがよくなる。あまりにもこの図式にきれいにはまるのは鴎外と志賀直哉で、漱石は、この点からみても、明治文学の傍流だった。

 戦後昭和の文学も、核家族からの逃走なのだと思えばわかりやすい。庄司薫村上龍橋本治村上春樹山田詠美。だいたいそうではないか。

 小此木啓吾核家族への気負いというのは正直共感できないものを感じるが、時代だったのだろうと思うしかない。核家族を追求した先達として、フロイトに自己をアイデンティファイするほどの熱心さだった。