『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

アメリカが弱気になっているのか。老いて生まれて、赤子になって死ぬという主人公の設定は、そうすることで人間から人生を抽出し、さらに、男女の宿命的なすれ違いまでも表現しようという欲張りな動機からのもの。

しかし、まさにそこが問題だ。アメリカは欲張りすぎた。実際のアメリカ史は、単純にそれだけの話だったのではないか。そして、それでいいではないか。事実だったのだから。この映画には強欲な人間がまったくでてこない。アメリカを描く映画に、それはないだろうと思う。『ファイト・クラブ』のエンディングが意外に思えて、呆気にとられた口だが、その十年後の表現として、順当な達成ではある。年老いた実存主義者は、社会を混乱に陥れる意欲すら失った。そういう映画なのだとも解釈できる。

フランク・マーシャルキャスリーン・ケネディが製作に参加している。