『みな殺しの霊歌』

このころの倍賞千恵子は頬がふっくらして丸顔といってもいいくらいでかわいかったのだが、早くも『男はつらいよ』で竜造を松村達雄が演じたころから頬が落ち、やつれたようになり、丸顔というよりは四角な感じになっていく。さくらの所帯じみた感じが出ているとはいえ、これはどうしたことだろうとおもうのだ。この時期に病気でもしたのだろうか。

 男が強姦されるというのもよくわからないが、強制猥褻というあたりが実態に近いだろう。よくわからないままに集団就職で東京につれてこられ、面白半分に裸にむかれて、陰茎をしごかれて、射精してしまったそのざまを、金持ちのぶた女どもに笑われた。このことが悔しくて少年は自殺し、知り合いの男が復讐に走る。

 40年以上前の映画とはいえ、倫理観がずれている。要するに男の復讐の手段として、連続強姦殺人という当時にしては珍奇な設定をさきに思いつき(だから、劇中の犯人役の佐藤允は、後年の映画によくあるような変態のシリアルキラーではない。義賊として、天誅の強姦を行う(!)のだ)、その理由付けとして、女5人組による少年への「強姦」を後付けで設定したのだろう。その強姦は「強姦ではない」わけで、だから、論理が成り立っていない(過剰な報復である)。劇中でも、いいわけのように、捜査官が、犯人の動機の「不思議さ」に首をひねっている。

 どうも、潤いのないドライな犯罪ドラマに、山田洋次があとから山田流の人情話(佐藤と倍賞のくだり)をくっつけて一本の映画にした感じである。犯罪の動機に自然らしさをおぎなってはじめて「脚色」の名に値するのだが、この作品ではうまくいっていないようだ。しかし、表現はいろいろ面白い。

みな殺しの霊歌 [VHS]

みな殺しの霊歌 [VHS]