孤独な人にミステリーは面白くない

ハサミ男』は映画で見たし、『ロートレック荘事件』も断筆宣言のころ読んだが、まあ、なるほどとしか思わなかった。要するに読者の自我が不安におちいることをホビーとして面白がるための手法なんでしょ、そんなあたりまえのことに念を押されてもな、としか(そういえば筒井は『虚空の目』や『ユービック』は評価しても、『ヴァリス』は認めなかった)。『ファイトクラブ』で話者とヒーロー(ブラピ)が同一人物だったという趣向(『ロートレック』の逆)も、「まあこういう閉じ方が映画としてキレイだよね」としか思わなかった。都会生活に倦んだら暴力にいくしかないというメッセージが楽しかっただけである。


孤独でない人が、人間関係に倦んだ時にミステリーは面白いのだろう。会話に倦んだ時に、相手をどう殺したら面白いかを空想する趣味を、乱歩がなにかのエッセイで披瀝していたが、このあたりの機微を端的に摘出している。


まあ、孤独であってもおめでたい人はミステリー面白いだろうけど…。