『ダークナイト』吹替え版

ウェインがデントの方を助けにいったこと(誤解だが)を、レイチェルは、納得と失望と、矛盾する感情をかかえて死んだこと(すごい作劇…)が強調されてて面白い。


ジョーカーはおれは謀ったりしないとうそぶきつつ実は一番計算高い。ジョーカーはなにをいちばん実証したかったかというと、人間はみな俺のようなものだという観念を実証したかった。いいとこまでいきつつも、それには失敗したわけだ。病床のデントを誘惑するシーンは語るに落ちた感じ。


吹替え版は画面に集中できていいな。ビルを占拠する「ピエロ」が実は人質であることをウェインがはじめて気づくシーン、仮面の下は病院爆破の際に拉致されたテレビリポーターだったのには気づかなかった。


この映画が厄介なのは、夥しい嘘に観客が幻惑されてしまうところにある。悪意の嘘、善意の嘘、妄想、自己欺瞞が入り乱れているのだ。しかし都会ってもともとそういうものだ。われら善良な観客がそうでない理想郷をもとめて映画を見るのに、この作品はほかの映画のように安穏と浸れる嘘の世界を提供してくれない。嘘が飛び交う現実の世界を模倣してこちらに叩きつけてくるのだ。