「性欲のある風景」

族譜・李朝残影 (岩波現代文庫)

族譜・李朝残影 (岩波現代文庫)

タイトルに惹かれて手にとった。鮮烈。少年航空兵のくだりなど粛然とする。


ただ不思議なのが、「僕」の動員先だった「S滑空機製作所」と実家とが4キロの距離にあって、その中間に高さ1000メートルの大硯山が邪魔をしていて直進できない、できないから、四角形ABCDのA点が製作所でD点が実家だとする場合、毎日動員先まで三辺DC,CB,BA上を通過して通っていったらしいのだが(本文にはコの字型とある)、満員電車で1時間もゆられたとあるのだ。遅すぎないか。ソウル中央からナムサン公園とハンガン(漢江)をはさんで4キロのあたりに、山の麓なんてないんだが…。牛眠山までは10キロちかくありそうだし、その牛眠山の標高が290メートルだというのだから、この大硯山って何だろうと思うのだ。ノリャンジン駅はトンジャク区にあるというのだから、製作所はトンジャク区とソチョ区とのさかいあたりにあったのだろうか。


新詳高等地図 (Teikoku’s Atlas)

新詳高等地図 (Teikoku’s Atlas)


 昭和13年ごろ、梶山家はソウル郊外の山を切り開いた造成地に、家を新築して移りました。 その家は日本家屋ですがオンドルがあったそうです。最初は2,3軒しか家がなかったが、終戦のころは1OO軒ぐらいになっており、 周りには現地の朝鮮人の集落もあったそうです。
http://www002.upp.so-net.ne.jp/kenha/kajiyama13.html


その「ソウル郊外」がソギョドンやハプチョンドンあたりだったら、すんなり納得がいくのだが(キョンイン線がまさにコの字に走っているのだ)。小説のナムサン公園は、現実にはヨイ島だったのではないかと。


実際の梶山少年はインチョンに通っていたそうだから、たしかに列車で1時間くらいはかかっただろう。車中でキョンイン線が(自分にとって)無駄な迂回をしているのが腹立たしくもあったのだろう。とはいえ虚構構築のさいの手間を惜しんだせいで、なんだか妙なことになってしまったというのが真相、というところか。


なぜ梶山の記述にひっかかったか。だって底辺2対高さ1(の直角三角形をふたつあわせて二等辺三角形にした)山なんてそうとうな急峻ですよ、角度45/2°もあるんだから。そんなんが川のそばにぼーんとあるわけないじゃない。こういうところにちゃんと疑問をもつのが、ようするに常識というもの。