愛のいろいろ

西舘好子(当時)の愛は、本人はどう思っているか知らないが、「同志愛」なのだ。綿々とつづられる文章からは不思議なほどにエロスが香らない。井上ひさしは、贖罪意識にかられた実母から崇拝されて、実母から自立する機会を奪われて、その感情を妻にも注げなくなったために、妻であるはずの好子を「母親」として殴りつけた。「架空の母親」と「思いどおりにならぬ妻」の、二役を背負わされた好子は、そのぶん人並み以上に暴力をふるわれる羽目におちいったのである。

しかし西舘によってばらされたことのうち、何が恥ずかしいって、母親相手に床屋政談していたことが一番恥ずかしい。妻を殴っていたことなんかより、井上にとってよほどダメージが深かったのではないかと思うのだ。

愛がなければ生きて行けない

愛がなければ生きて行けない