『エホバの顔を避けて』

終章以外は、山にのぼる直前のヨナによる長大な回想。終章は人との交わりをさけて急激に痴呆化していくヨナの内的独白。習作は習作としても、書き込みすぎている習作。まるで自分がニネベの街に行ったかのような読後感をもよおした。

エホバの罰が下らなかったことを知ってからのニネベの人々の行動は、偶然だが映画『パフューム』とかぶっている。あるいはこういう類型があるのだろうか。私は『ユリシーズ』すら読んでいないからな…。

それともあれか、神国日本が戦争に負けて滅ぶかと思ったら滅ばなかったのでみなが安心して楽しみに勤しんで人口がぐわっと増えた、戦後のあの時期のことを描いているのか…。

書き出したのが1950年代のはじめころで、10年近くいじっていたらしい。たしかにそういう文章だとおもう。執筆中の丸谷青年の周囲は、1960年の安保闘争にむけて騒然としていた。

丸谷なんてちょっと鼻持ちならない感じがあったのだが、この小説でまったく見違えました。