丸谷才一「思想と無思想の間」

昭和四十三年発表。三島事件の二年前だ。林房雄筒井康隆風にカリカチュアライズした前半は、ただただ楽しい読み物といった印象だが、後半に不気味な右翼青年が登場してくる。後のオウム事件の教団幹部の名前に「偶然一致」した名前を持つこの青年は、自分のみじめな閲歴をヒトラーのそれと重ねあわせて、結果から逆算した大衆煽動原理を小説の語り手に吹聴する(どのエスニックグループが日本人が憎悪するにふさわしいかを、淡々と選別していくのだ!!)。この政治理論が妙にリアルで、新左翼運動衰退後の新興宗教ブームやニューアカデミズムブームを予言しているように思えるのだ。丸谷がこの種の超能力系オカルトに無関心だったことが悔やまれる。そうでなかったら、もっと緻密な未来分析を提示していただろう。この政治青年が、逆境に簡単にめげてしまって故郷の北海道に帰ってしまうあたりの無責任さも、とても現代的な気がする。

年の残り (文春文庫)

年の残り (文春文庫)