「思想と無思想の間」における家制度

珍妙な保守評論家として再ブレイクすることになる戦前の思想家黒田英之輔のひとり娘まゆみと、そうとは知らずにつきあいはじめた新進翻訳家の塩谷実は、晴れて結婚することになるのだが、黒田の姉が家名に拘って塩屋は自分の姓を黒田に変えることを要求される。塩屋は次男が死んだ家の三男で、家名に対するこだわりはないのだが、黒田の思想遍歴にたいするこだわりから黒田の姉の要望を受け入れられないでいる。これは書いてないのだが、保守思想の持ち主としても英之輔は、夫のほうが姓を変えることには釈然としない気持ちをもつであろう。娘可愛さのあまり、英之輔は家名に関する自分の姉のこだわりを閑却してしまっていたのだ。