『ミリオンダラー・ベイビー』

生存と闘争と、後悔を主題にした映画作品。

イーストウッドが演じているので、つい調子が狂ってしまうが、これ、イーストウッドが演じたボクシングジムのオーナーだけが、「生涯、勝負に出なかった男」なのだ。

他のキャラクターは、みんな勝負に出て、結果を引き受けている。ヒラリー・スワンクも、モーガン・フリーマンも、ペットボトルのなかにどうやって氷を入れるのかわからなかった頭の弱そうな若い男も、スワンクの母親も、みんな勝負に挑んで、敗れ、あるものは再起を期する。

イーストウッドのオーナーだけが、小利口で、戦略があって、ノウハウがあって、致命的な傷を負わずに、しかしこれといった何かを獲得することもなく、人生をやりすごしてきた。そういう男が、安楽死を手伝ってもらいたいというオファーを受ける。取り返しのつかない結果がかならずついてくる決断を迫られる。