映画評論家なんて知らない

昔、『ぬえの名前』かなにかで、橋本治が「サルマン・ラシュディなんて知らない」ということを言っていて、なるほどなあと思ったことがある。石原慎太郎がまだ若い頃、小説家の会合で、時間が余ったことをきっかけに、会のリーダーが「安保反対」を軽い気持ちで決議しようとしたので、強硬に反対したエピソードも思い出す。

1970年の安保のころまでは、政治と映画が対立していて(政治と文学が対立していたのは戦後の話だ)、政治は映画にすすんで負けてみせた。映画は表現の幅をひろげたせいで、かえって、死んだ。政治は映画の死体を眺めて、ほくそ笑んだ。1970年代からこっちは、退却戦だ。