『レフト・アローン』

正しいことの、正しさを引き受ける根拠がなくなってしまった。「大事なことのために、自分を捨てればいいじゃない」。もう捨てれなくなってしまった。そんなの、怖いわ。捨てて、しかし失いきることのなかった人々が出てくる。それは、そうだ。捨てて捨てきった人は、つまり、命まで失っているのだから、証言のしようがない。死んでいるのである。

妹を失ったばかりの西部邁が語る。自己の宿命との葛藤の末に左翼運動に飛び込んで、仮想の自殺を敢行した。虚脱状態のなかで、やっとたちあがって周囲を見渡すと、大学教育をつんだ専門人が、冷たい視線で自分を眺めている。自己を滅ぼすパトスから逃げておいてすましかえる大衆に、西部は牙をむくのであった。