なぜ宗教文書は大量に遺されるのか

 それはひとえに、人の心に関わるものだから、ではないかと思うのだ。歴史にしろ地理にしろ、あるいは叙情詩にしろ叙景文にしろ、ものにするには種がいるが、宗教のテーマは、人の心そのものだから、種は他のジャンルにくらべて広大である。他ジャンルのものは、見聞を広めるなり、研鑽を積むなりしなければならないが、宗教に関しては、自分が心をもってさえいればそれで十分なのである。

 新約聖書の、福音書には正直いってどうという感想も浮かばず、ただイエスの折々の機智に感心するだけなのだが、「ローマ信徒への手紙」にはうなってしまうのである。原初の心理学がここにある。